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NIJIの夢

NIJIの夢

揺れた右腕


揺れた右腕


青年はその人が出て来るのを待っていた。
その人は、講演中だったのである。
その人とは、今は亡き、映画評論家の淀川長治氏である。

講演が終わり、氏は出口で待ち構えていたファンと握手を交わしながら、次の会場に向かおうとしていた。
青年は握手を求めるため、列の最後尾に並んでいた。
青年の番が来た。
みんなが右手を出している中で青年は左手を差し出した。

氏は言った。「君、握手は右手でするもんだよ!」
急いでいたのであろう。氏は青年と握手をする事もなく車に乗り込んだ。
しかし、氏は気になった。青年が浮かべた寂しそうな顔が・・・。

車を発進させた直後、氏はルームミラーを覗き込んだ。
氏の目に飛び込んで来たのは、風に吹かれてブラリと揺れる青年の右腕の袖だった。
氏は、青年が何故列の最後にいて左手を出したのかを一瞬にして理解した。
すぐに車を止めさせた。

次の講演をキャンセルして、氏は青年に謝ったという。
青年曰く、「先生(淀川長治氏)のファンで、講演が聴けなかったので、せめて握手を」と。
不慮の事故により、右腕が欠損したこと。
列の中央では先生が握手をしづらいと思い最後尾にいたこと。

氏曰く、「初めは、何と失礼な人だと思った。」
しかし、左手を出すにはそれなりの事情があるのだろうと・・・。
二人は長い時間話したという。

σ(^_^;)は思う。
大勢のファンの中のたった一人。
時間に追われていたし無視する事も出来た。
例えそれに気づいても次の会場に向かう事は出来た。
しかし、氏はそれが出来なかった。自らも苦労して育ってきたからである。
一人の人を大切にする。これはσ(^_^;)のモットーでもある。
「さよなら さよなら さよなら」の笑顔の裏付けは、この一事をもっても理解が出来る。


仮に、氏が人気に溺れ高慢になっていたら生まれなかったドラマである。
人は、男と女、社長と社員といった区別(差別ではない)や立場の違いはあっても、人間として平等である事を忘れてはなるまい。


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